GLAN SENADO 愛情(2010/5/18)


 「あーオフロ入ってお肌ツルツル!寝不足と乾燥は美容と健康の敵!」
 風呂上りに頭にタオルを被ったガルーダがセイフハウスの居間のドアを開ける。
 「キルはお風呂入る・・・ってアンドロイドだから無理かー。」
 アクアリウムの水面の波が天井に映える暗闇の中、テーブルの上を手探りでテレビのリモコンを探す。
 ピッ
 『明日の天気は曇り時々雨、最高気温は・・・』
 テレビのスイッチを入れる。朧な液晶の光に照らされる部屋。ちょうどバラエティの合間だったらしく、とりとめもないニュースと
頭がボーッとするような流行っぽい歌謡曲が流れている。
 「はー」
 ドサッ
 尻もちをつく様に勢いよくソファに雪崩れ込むガルーダ。V字に開かれるしなやかで健康的な両の脚は、まだ少女の印象を残している。
 「ねえ、キルー?・・・あれ、いないのかな」
 いつもなら2人きりのこの部屋では彫刻の様な美しいシリコン製の形のいいおっぱいや、毛まで生えそろった女性器まで惜しげもなく晒して
ウロウロしているはずのキルが見当たらなかった。
 「それじゃ、1人でしよ」
 まずははちきれんばかりに育った乳房に手を伸ばし、胸の部分だけ引き伸ばされ突き出した布の上から指でなぞる。
 「ふあ・・・ん・・・く」
 少し慣らすように指の腹を当てた後、一気に乳房を掴み、手の中に収めて上下左右に乱暴に揉みこむ。
 「あっ・・・激しい・・・!」
 乳房を愛撫しながら今度は下腹部に手を滑らせ、短パンの中に手を突っ込む。
 「ああっ・・・!」
 暗闇の中指で敏感な所を押さえ、突然襲い来る強烈な快感に嬌声を上げ思わず仰け反る。
 「夜が私を高ぶらせる・・・暗闇が私を開放してくれる・・・!!」
 テレビ画面の液晶の光がハレーションを起こした薄暗がりの中、大きく脚を開き短パンの上から布をへこませてワレメに沿って愛撫する。
 「ここには名前も国籍も立場も無い・・・私は今ただの一人の女・・・」
 背徳的な快楽に悶えるガルーダのうっとりと蕩けた瞳は何を見ようとしたのだろうか。家族、学校、友達、夢・・・それら全てがガルーダには
無かった。肢体を貫くような純粋な快感だけが、彼女に開かれている。 
 「ああ・・・もっと・・・強く・・・」
 ガルーダはふらふらと立ち上がり、短パンから片脚を外してひきずったまま寝室のベッドに横になり、既に水浸しになった股間に指を伸ばす。
 クチュ・・・
 「ああ・・・!」
 ガルーダはこみ上げてくる快感に髪を振り乱し、天を仰ぐように仰け反って声にならない叫びを漏らした。
 
 イキ疲れたガルーダが風呂上りそのままの格好で、柔らかそうな口許から微かな寝息を立ててベッドに沈んでいる間に、部屋の窓越しに見える
街灯に照らされた冷たいアスファルトも青白く朝陽を帯び、刻々と倦怠や喧騒といった陳腐な表現で片付けるのが早いサイクルへと心を駆り立てる
のだった。
 「くかー・・・」
 股に張り付いた薄布一枚で、女である事を証明する胸や腰の凹凸を露わにして眠るガルーダ。何人の目も届かぬ所で、彼女の魅力的な肢体が
糸の切れた様にその身に宿した誘惑の正体を包み隠さず曝け出している事を、誰が想像出来るだろうか。
 コツ、コツ、コツ・・・
 病的なまでの美しい曲線を形作るヒールを足取りの一歩毎に、その周囲とはアンバランスな色と光沢を刻印されたかのように運ぶしなやかな脚。
 「・・・うーん」
 窓の外から響くヒールを鳴らす音に気がつくガルーダ。眠い目をこすり、ぼやけた部屋の様子を観察する。
 「私、眠ってた・・・?」
 まだ曜日や日付の概念が彼女を拘束するのに追いついていなかった。昨日は戦闘スーツの性能試験があって・・・あ、それは明日か、キルは今
帰ってきた所で・・・じゃあ夕方?あれ、昨夜部屋には一人だった・・・
 ガチャリ
 キルが背中まで伸びた金髪と派手でキツイ印象の顔つきに、アンドロイドである彼女のボディの開発と運用を行う企業チームから支給されたのであろう
上品で地味な印象の衣装という、商売女の休日にしか見えない私服にまとわりついた汚れた外の空気や建物の塗料の臭いや金属臭やカルキ臭と共に
部屋に辿り着く。
 「おかえりー・・・遅かったねぇ」
 ガルーダはベッドから床に脚を付けて、肩から外れたシャツを直しつつ眠気交じりの抑揚の無い声でそう答える。それで普段ならお互い顔を合わせる
事も無く、キルは部屋を横切ってデータルームへ去ってしまうのだが、今朝は様子が違った。
 「昨夜は・・・私」
 キルは冷たく優美な唇を重たそうに開き、顔にかかった髪の間から虚ろな機械の瞳をガルーダに向ける。フォーカスされズームされたガルーダは
シャツの胸元から谷間を強調させ、俯いていた顔はキルの言葉に対し僅かに片方の眉を上げ驚いた様子を見せる。
 「何かあったの・・・キルが居なくても寂しく無かったかな」
 ガルーダは脚をばたつかせてどこか一点を見つめながら口をついた様に憎まれ口を叩く。
 「何も・・・知らないのね」
 キルはそっぽを向き、再びその表情は艶やかな金髪に隠される。
 (えっ?)
 ドサッ
 ガルーダが疑問を切り出す前に、キルは入り口のドア受けの部分に寄りかかるようにしてしゃがみ込む。
 「ど・・・どうしたのキル!?大丈夫?」
 ベッドから飛び出して駆け寄るガルーダ。キルは全身の力が抜けて、頭を傾け虚ろな瞳を薄暗がりに浮かべている。
 「疲れた・・・」
 ガルーダが顔を覗き込むとキルはうわ言の様にそう呟く。
 「疲れた・・・って、故障したの!?」
 目許のキルのグラマラスな肢体には特に外傷は見受けられない。
 「ううん・・・安心しただけ・・・上手く伝えられないけど」
 キルの声―正確には、合成された音声が、張り詰め沈黙した部屋に響く。
 「そう・・・よかった・・・」
 ガルーダはキルの手を握り、胸を撫で下ろしてそう言った。

 シャアアア
 ひんやりとした空気に素肌を少し緊張させ、バスルームに立つ一糸まとわぬ姿のキル。慣れない手つきでシャワーの水流が彼女のシリコン製の
乳房やおへそに当たって出来る水滴を払う。
 「突然ストリップ姿になったと思ったら、色気づいてシャワーシーンなんて始めちゃって・・・キルってどうかしてる。」
 バスルームの外には珍しいキルの行為を不思議に思ったガルーダが張り付いていた。湯気で曇ったガラス戸越しに床を打ち付ける水しぶきの音と
排水溝の大げさな唸りが聞こえてくる。
 「ううん、ガルーダ、心配ないから。」
 ツルツルとしたオシリを気持ち弾ませて、扇の様に伸びた長い金髪を垂らした何ともセクシーな背中ごしに、キルの返事がする。ガルーダの事を
疎ましく思っているのか、それとも幼げな好奇心に内心笑みを浮かべているのか、表情は読み取れないし、心の裡は分からない。
 「ふーん、これがキルのパンティか・・・ちょっとドキドキ」
 ガルーダはランドリーから脱ぎ捨てられた紐の様に細くて小さい下着を取り出し、目の前にかざして引っ張ったり縮めたりして弄って思わず赤面した。
 「ん・・・何だろ、この白いの」
 ガルーダは下着についていた液体に気付き、感触を指の腹で確かめる。液体を伸ばすと糸を引いている。
 「これってまさか・・・」
 ガルーダは勘ぐってみて青ざめた。同時に金髪グラマーエージェント裏の素顔、仲良しを装う相棒とのすれ違い、女のプライド・秘密の逢引きなどといった低次元の
フレーズが次々と脳裏をよぎった。
 「男漁りなんて・・・進んでるのね・・・」
 シャアアアアア
 扉の向こうで下着を物色して勝手に騒いでいるガルーダの影を、髪をかき分けながら横目に睨むキル。何か考え込むかの様に、眉をつり上げ瞼をつむり
打ち付けるシャワーの湯を仰いだ。