BLACK HOLE


「クラス委員に立候補する人いますかー」
 「ハイ!」
 茶色がかったセミロングの、おしとやかな印象の女の子が勢いよく挙手する。
 「おっ、祐里、やってくれるのか。あと一人」
 「私、やります。」
 もう一人手を挙げたのは、ショートカットの活発そうな女の子だった。
 「あっと言う間に決まったな。頼むぞ二人とも。」
 「がんばろうね、祐里」
 「ええ」
 「本当に仲がいいな、祐里と亜季は」
 教室の中それぞれの席に座る高校2年H組の祐里と亜季。亜季が後ろに振り向いて照れ笑いを浮かべる。祐里はそれに満面の笑みで返した。
 
 放課後、下校の時間もとうに過ぎ、夕暮れに包まれた教室には祐里と亜季の2人だけが残っている。校舎のグラウンドではサッカー部が練習している。2人は教室の窓からそれを見ていた。
 「あ、いたよ亜季が好きな先輩」
 祐里が窓ガラスに指先をくっ付けて亜季の探していたサッカー部の先輩の居る場所を教えようとする。
 「えっ、どこどこ」
 亜季は祐里に体をくっつけて指先に視線を合わせようとする。
 「こっちこっち」
 亜季は先輩を見つけようと窓際を移動するが、それを祐里が遮る。制服のミニスカートに包まれた2人の腰がぶつかり合う。
 「たく、祐里、どこに居るんだよ・・・」
 亜季はヤケを起こして先輩探しを諦めようとした。
 「・・・・・・」
 先輩探しに夢中になっているうちに、2人の距離は鼻先が付きそうなくらい狭まっていた。無言で亜季の唇を奪う祐里。
 「むぐっ・・・」
 突然、口許に柔らかくて生暖かい感触が充満する。暫く拒絶の意思が無い事を確かめた後、その感触は離れた。
 「どうしたの、祐里・・・」
 恥ずかしさや嫌悪感よりも、疑問符が頭をもたげる。
 「亜季があまりに可愛かったから、つい」
 「もう・・・バカ」
 亜季は座っていた椅子を元の場所に戻して、廊下に出て行く。
 「私、教室の鍵返してくるから」
 「祐里も行く」
 「いいよ、アンタは校門で待ってて」

 「遅いなー、亜季の奴」
 カバンを持ち校門に立つ祐里。腕時計を気にしている。その背後から、こっそり近付く黒尽くめの男。