「ほらマコトー、遅れるぞー!」
「ハハハ、待ってよー!」
夏のうだるような暑さの中、真新しい制服のシャツ姿で自転車をこぎ、坂道を登る少年達。
「チケット1万で買うよー!」
会場の外には行列が出来、今年一番の話題映画、"夏休み子供映画スペシャル 2049"の公開を今か今かと待ちわびている。
「フー、間に合った」
「前売り買っておいてよかったなー・・・」
会場の中は冷房がきいていてひんやりとしていた。ティーンの注目を集める2049の世界観に浸るマコト達4人の中学生は、劇場版の公開を夏休み最大のイベントと位置づけ、前売りまで買って公開のこの時を心待ちにしていたのであった。
「すげー満員だぞ」
短髪の元気のいい少年が座席の後ろを向いて会場を見渡し、他の友達に騒ぎ立てる。
「本当だ」
中学生達は会場が埋まっている事を確認すると、満足したように前を向いて椅子に背をもたれた。ロビーで配布していたうちわを手に手にあおぐ。
「あ」
「どーした」
「ポップコーン忘れた」
「もう遅せーよ(笑)」
ブザーが鳴り、照明が落とされ、観客達のざわつきも止む。スクリーンには配給会社のロゴが映る。
「予告編か」
「あ、これ知ってる」
スクリーンの光を照り返す少年達の好奇の表情。
ジャーンジャジャーン
スピーカーから流れる迫力のサウンド。
(やべ・・・眠くなってきた)
暑さからくる疲労だろうか、マコトはスクリーンに見入る他の友達の傍らであくびをし、目も開かなくなってきた。
(お・・・休・・・み・・・)
『Z・・・5・・・6・・・』
(ん・・・声が)
『Z-456』
(映画、終わったのか?)
「目を覚まし給え」
「・・・・・・!?」
気がつくとマコトは暗闇に横たわっていた。頭上からライトの鋭い光が差込み、目が眩む。
「ん・・・あなたは?」
目の前にはライトを背にして、軍服姿の背格好の立派な男が立ち、マコトを見下ろしていた。
「私はシュバイツァー軍曹だ。私の事は軍曹と呼べ」
「・・・・・・」
(軍曹・・・?それにここはどこだ・・・)
少年は一面に真っ暗で察しのつかないどこか広大な空間の床に手をつき、上体を起こす。
「ぐ・・・頭が痛むな」
マコトは暗闇の中出口を探して、頭を押さえながら軍曹と名乗る男の横を通り過ぎる。
「何処へ行くつもりだ?」
「帰りたいんです、家に」
それを聞き腕組みしていた軍曹は俯き口の端を引きつらせる。
「貴様に帰る処など無い」
その言葉に硬直するマコト。と同時に不意に背後が眩しくなった。
「あれを見給え」
マコトが振り向くと、軍曹の後姿とその向こうに暗闇と幾千の大小の光点が広がっていた。その中心に一際大きな光点が一つ。
「あの赤く燃える球体が、何だっていうんだ」
「あれは地球だ」