「きゃあああっ」
深夜のダウンタウンに響き渡る絹を裂くような黄色い声。雑居ビルに挟まれた小路に、白くて細い脚を引きずり怯えた様子で後ずさりする赤毛の女の子。その視線の先には。
「ひっひっひっひ」
頬の端を引きつらせて下卑た笑みを浮かべる、着衣と頭髪の乱れたメガネの男。
「やめて・・・何をするの!?」
男は震える少女に近付き、制服のイノセントな白さのシャツの襟元に手をかけた。
「いちいち騒ぐんじゃねえよ・・・」
おもむろに赤いリボンの先を掴み、ゆっくりと引いて結び目を解こうとする。
「誰か!!」
赤毛の少女は男の手から逃れようと学生鞄を抱えて駆け出すが、呆気なく背後から羽交い絞めにされ発展途上の乳房を揉みしだかれる。
「離してー!!」
そう振り絞る様に叫んだ少女の顎を持ち上げ、キスで唇を塞ぐメガネの男。
「涙まで流して・・・そんなに嬉しいか?・・・むほっ」
暗闇の中さらに下半身に向かって男の手が制服の上を辿って行こうとしたその時。
「その子を離しなさい!!」
「!!っ」
通りの方から制止する声が響く。少女を押さえたまま振り向き睨みつける男。
「パトロール中に人の気配を感じて来てみたら・・・こんな所で何をやっているんだ!?」
対魔物用に作られたソード状の大型の武器を突きつける、華美と言える程のデザインをした婦警姿のロングヘアの女性。その自信に満ち溢れた物腰は、変質者の男にとっては特に不興を誘うものだったらしい。
「女・・・俺を見くびらない方がいい」
武器を構える女の方を向き直り、首を鳴らす男。
「大人しく言う事を聞かないなら・・・実力行使ね」
武器を下げ、靴音を響かせ男の方に歩み寄る女。しかし女の目の前で男の姿は消えた。
(えっ!?)
男の気配は瞬時に彼女の背後に移動していた。麗しい瞳を見開き、動揺を隠せない女。
「キサマ・・・魔物かッ!?」
暗闇に立つ男はメガネの片方のレンズを光らせてその言葉に反応を見せた。
「だから言ったはずだ・・・」
「ならば容赦はしない!」
女は武器を構え、妖しげな光とともにエネルギー派を放った。
ズバアッッ
しかし男の体の前で球状の輪郭をなぞってそれぞれはじかれる。
「そんな攻撃が通じると思っているのか?」
無傷でこちらを見る男に眉をしかめ、焦りを露にする女。
「くっ」
腰のホルダーから特注の拳銃を取り出し、即座に発砲する。だが弾丸は男には届かない。
「それで終わりか?」
女の攻撃が止むと、ポケットに手を突っ込んだ男の足許から何本もの触手が生え出して来て、驚く女に向かって一斉に伸びて行った。
シュルルルル・・・
触手が女の全身に絡みつく。
「ああああ!!・・・」
ギシ・・・と四肢のきしむ音がする。蠢く触手は制服の隙間を縫って素肌にまで侵入する。敏感な部分が触手の粘膜に擦られ、女は思わずくぐもった吐息を漏らす。
「くそ・・・何て事・・・!!」
女は全身に絡まった触手から逃れようとするが、暴れれば暴れるほど体力が奪われ、触手はさらに全身を這い回る。
「ぐはっっ・・・」
朦朧とした意識で、目の前で少女が男に犯され、喘いでいるのに気付く。
「あっあっあっあっ」
女も全身をのたうつ触手の刺激に惚けた表情を浮かべる。
(ああっ・・・もうダメ・・・)
女の手から力が抜ける。男は一通り少女の肢体を味わうと、胸をはだけたままの少女を抱え、連れ去ってしまった。
「いいザマだな!!ハッハッハッハッ」
闇に消える男の笑い声が、女の脳裏に焼きつくようだった。
(私はあの夜少女を助ける事が出来ず、犯行に及んだ男も取り逃がしてしまった)
何年かたち、魔物狩りをしていた女は、男に抱かれる夜の仕事へと堕ちていた。
(私はあの夜の男を捜すため、娼婦になり男が現れるのを待った)
女には男を虜にする美貌があった。そのためとても人気があった。露出の高いいやらしい下着を身に着け、誰だか知らない男を次々と迎える。
(そしてある日、その男は現れた)
男は客として、女は娼婦として。
「ああっ」
男は欲望そのものの目つきで、女が誰なのか気付いていないようだった。そして女は抱かれたのだった。
(私はこうなる事を望んでいたのかもしれない)