「こんな所に呼び出して・・・何の用よ」
放課後、市街地の駅近くにある高校の後者裏に、2人の男女がいた。一人は長身で髪を分けたハンサムな青年、もう一人は金髪ポニーテールの、いやらしい様な体つきをした美少女、藤彩妖華だ。
「・・・キミの選択は間違っている」
青年は美しい目鼻立ちをこれでもかと言うほど引きつらせて、邪悪そのものの目つきで妖華を睨んだ。
「僕は金も人望も全て持っている、この僕が失敗する事なんてあってはいけないんだ。キミに断るという権利は無い。僕を受け入れて全てを手に入れるか・・・それとも・・・」
青年は長い前髪を垂らして俯く。
「それとも何?」
妖華が怪訝そうに青年の顔を覗き込む。すると突然背後から両手を引っ張られた。
「!!・・・えっ!?」
背後には青年の取り巻きが2人、妖華の両手を押さえつけている。
「・・・離してっ・・・!」
ポニーテールを振ってもがく妖華。はちきれんばかりの胸を突き出し、却って男を誘うかの様だ。青年は羽交い絞めにされた妖華に近付き、その食いつきたくなる色気の制服姿を舐め回す様に見つめ、どす黒い視線を向けた。
「嫌なら、嫌でも僕にそのカラダを差し出すかだ」
むぎゅっ
取り巻きの一人が背後から妖華の片乳を乱暴に揉みしだく。妖華は恥辱に頬を紅潮させる。
「や・・・めてっ・・・」
「フフフ・・・」
青年は妖華の顎を押さえて顔を近づける。唇が重なりそうになり、妖華は抑えていた"気"を解放した。
「!?」
鼻が付くくらいの距離で、その気に気付き動揺を隠せない青年。
ブワッ
妖華の掌から閃光とともに呪文の書かれた帯状の気の塊が現れ、2人の取り巻きに巻きついて身動きをとれなくした。
「ぐはっ・・・イテテ」
倒れ込む取り巻きたちを尻目に、妖華はしなやかな脚でアスファルトを駆け、建物の角を曲がり姿を消した。
「は・・・ははは」
足元には縛られ横たわったむさ苦しい取り巻きしか残っていない。青年の顔からはすっかり精悍さが消え、腑抜けた様子を見せる。
「破滅だ・・・こんな事が誰かに知られたら・・・」
青年は手で顔を押さえつけ、地面にうずくまった。
「こ、こうなったら・・・」
青年はズボンのポケットから携帯電話を取り出し、電話帳を開き通話ボタンを押した。
プルルルル、プルルルル・・・
妖華は繁華街をさまよっていた。通りを歩いているのはネクタイを巻いたサラリーマンや昼間から遊んでいるようなギャルばかりで、制服姿の妖華は人ごみから浮いていた。
「ハア、ハア・・・ううっ」
妖華の足取りが通りの途中で止まり、その華奢で柔らかな肩に両手を重ねて、小さな嗚咽を漏らした。
「・・・・・・」
その様子を傍らで見つめる、地べたに座った学生風の格好をした少女。
ピロピロピロ♪
「あ、もしもし」
携帯電話の受話器を耳に当てる少女。一瞬の沈黙の後、先ほどとは豹変した様子で、無言のまま立ち上がった。
「う・・・んんっ・・・」
その場に立ち止まり、掌で涙をすくう妖華。柔らかそうな唇から甘さの混じった吐息を漏らしている。
「ケッ、色気付いてやがる」
不意にどこからかそう言う声が耳に入り、妖華は顔を上げ、辺りを見回す。
「誰・・・」
そこで背後の気配に気付いた妖華。振り返ると、170はある長身の妖華より一回り小柄な女が、突然身を乗り出してきた。
「あ・・・あの」
後ずさる妖華の制服でも気に入ったのか、くっついてくる少女。
「イケない娘は此処か?え?」
少女は見た目からは想像出来ない妙にドスの利いた声で、妖華の腰にしがみつく。バランスを失った妖華は石畳の上に倒れ込んだ。
「キャアッ!」
少女は妖華のスカートの中に手を入れ、ムチムチしたオシリに張り付いたパンティに手をかけ、脱がそうとする。
「や、やめてえっ」
捻れたパンティをフトモモまでずり下げ、妖華の股間に顔を埋める少女。
「ふんっ・・・フハッ」
「あっ・・・だめっ」
股ぐらに顔を突っ込まれた妖華の周りには人だかりが出来てきた。
「美人なのに・・・残念だな」
「何かの撮影?」
妖華は奥の茂みに刺激を受けながら、その場から離れようと必死に身をよじる。
「お前が悪いのだ、お前が断るから・・・」
妖華のスカートの中でそう少女が言った。
「えっ」
「たまんないよ妖華」
見知らぬ少女の不審な行動、そして自分の名前を呼んだ事で、妖華は自分が生業としている霊の類の存在を感じ取った。
「もしかして、あなた・・・」
「・・・ハハッ、バレたか、そうだ僕だよ妖華」
「ごめんなさい!」
ガッッ
「うぐっ」
妖華が股間に突っ込まれた後頭部に手刀を打つと、少女は気を失って地面に倒れた。
ダッ
急いでパンティを上げスカートに付いた汚れを払うと、その場から走り去る妖華。
スカートの中のフトモモをモジモジさせながら、妖華は駅近くの線路沿いにある高層マンションのエントランスに入っていった。
「学園に霊が居ると分かった以上、私が退治しないと・・・」
エレベータが止まり、妖華の同級生、愛原美奈子の部屋番号のプレートの付いた重厚な扉の前に辿り着く。
「美奈子・・居るの?」
妖華はドアを開けて部屋に入る。廊下は薄暗く、リビングのドアからは淀んだ空の色が差し込んでいる。
「美奈子」
ドアを開けると、そこにはネグリジェ姿で蕩けた目をした妖華の同級生、愛原美奈子が部屋の中に立っていた。
「ずっと待っていたの・・・妖華♥」
美奈子の熱情に気圧されて思わず後ずさりした妖華の手を素早く取り、薄絹越しの自分の胸に引き寄せる美奈子。
「こんなにドキドキしているの・・・だから・・・」
(まさか、美奈子まで悪霊に・・・?)
妖華は美奈子を離そうとしたが、それよりも早く2人の唇が合わさってしまった。
「んん・・・」
舌を絡め唾液を交換する、蕩けるような感覚。
「ぷはっ」
息苦しくなり唇を離した妖華も、すっかり淫蕩に堕ちていた。
「私を抱き締めて・・・」
半ば背徳心に苛まれた様な苦悶と憂悶を含んだ眼差しで、そう懇願する美奈子。
「うん・・・」
妖華はぎこちない手つきで美奈子の細い腰に手を回す。そして一思いに美奈子を胸の内に抱き寄せた。
「妖華の胸、柔らかい・・・」
「こ、ここじゃ満足に出来ないから、ベッドに行こう」
妖華は美奈子の肩に手を回し、寝室へ歩いて行った。
「やっぱりおかしいよ、こんなの」
ベッドに座ってキスしていた2人。日が暮れたからか、我に返った妖華は困惑した様にそう問いただした。
「どうして・・・私じゃ不満なの?・・・」
「おかしいよ、美奈子!」
妖華は制服のボタンを留め、ベッドから離れる。
「あっ待って!」
美奈子は髪を気にしながら慌ててそれを追う。
ガタッ
暗闇の中つまずく妖華。むき出しの膝に痛みを感じたが、構わずに玄関を目指す。
「誰か!!」
玄関のドアを開け放ち廊下へ飛び出す妖華。廊下の端にはマンションの住人らしきニット帽を被った男が居て、携帯で誰かと通話している様だった。
「!!」
ニット帽の男の携帯を持つ手が明らかに不自然なくらい震え出し、ゆっくりとこちらを振り向く。
「あぁあああああぁぁああ!!!」
そして雄たけびを上げたかと思うと妖華に向かって突っ込んで来た。
ドサッ
突進され押し倒される妖華。制服の引き裂かれる音。
「ちょっと・・・離してっ!・・・」
妖華は男を振り払おうとするが、男の腕力は強く胸や秘所をいいように弄ばれてしまう。
「あっっ!そこはだめ!!」
男の舌が妖華の股ぐらに近付く。妖華は一瞬抵抗を諦めかけた。その時。
「アアアアア・・・」
男が突然頭を抱えて呻きだした。
「慌てて選んだ呪符の味はどう??」
背後にはジャンバーを羽織った美奈子が居て、呪符が宙に浮いていた。
「妖華、今よ!!」
「うん、美奈子ありがとう!!」
妖華が念じると体が気に包まれ、掌から札が出てきた。
「ここから去りなさい!!」
「アアアアア!!」
妖華は我を忘れて突っ込んでくる男に向かって札を飛ばした。札が額に張り付き、男は糸が切れた様にその場に倒れた。
「ぐふっ・・・」
男は震える手で携帯のボタンを押し、受話器を耳に当てた。
「こんな時に電話?」
効力の切れた呪符を拾い、美奈子が呟く。
「!!」
妖華は弾かれた様に、いきなり男の手から携帯を蹴飛ばした。
「ぐう・・・うっ」
その事に驚き、男の意識はそこで途絶えた。妖華は携帯を手に取り、通話を切った。
プーッ、プーッ
街角で通話の切れた電話を手にしたトレンチコートの男。男はコートの襟を上げ、その場を去って行った。