小説版 機動戦士ガンダムⅡ(2002)



 「本艦の大気圏離脱が完了しました」
 この果報は、ブリッジからの艦内放送でモルジブの全クルーに伝えられた。
 「やった!」
 「連邦軍の快挙だ!」
 成功率65%の計画に共に挑戦したクルー達は、ろくに親睦を深める時間も与えられなかったが、皆抱き合って喜んだ。
 艦内のはりつめた空気が一気に晴れた。普段から険しい顔をしている年長のクルー達も、無意識のうちにガッツポーズをとっていた。
 この大気圏離脱の模様はリアルタイムで世界中に放送され、連邦軍の力を国民に示す格好の宣伝となり、治安維持の為の潤滑油にもなった。
 この宇宙世紀0081年は、次を求める時代になっていた。ジオン公国の登場から一年戦争が起こり、連邦の勝利、そして終戦。
 この間に全人口の1/3が死んでしまった。この事に恐怖した人類は、なぜ公国のような独立国家の出現を予見出来なかったのかを考え、
 世論は第二のジオン公国を啓蒙し、連邦軍の腐敗を指摘した。"連邦軍は100年前のパーソナルコンピューターの様に無能だ"と。
 パソコンは新しい型が出ると、前の型は全く無用になってしまう。連邦軍の伝統的な官僚政治では、地球を越えた宇宙まで統治するのは難しい。
 そのせいで地球から最も遠いサイド3において、ジオン公国が出現してしまったのだ。その世論に対し連邦軍がとった行動が、地球から巡洋艦を航行させ、
 宇宙を監視する政策、すなわち今回のモルジブの大気圏離脱作戦だった。モルジブのクルー編成は軍司令本部によって行われ、そのほとんどは若者である。
 召集された若者の中には15歳の少年もいた。アムロ・レイの奇跡を知るクルー達からは、戦場のニュータイプとして少年少女達は大きな期待を受けていた。
 大気圏離脱作戦は見事に成功し、クルー達は3ヶ月間の航行監視の旅を始める。

 大気圏を超える為に莫大なエネルギーを放射してモルジブを支えた4基のブースターは、船体の中にスライドし、格納された。
 モルジブは微速前進で第一の目的地、"ペデスタン"と呼ばれるコロニーへと向かった。その間クルー達は充分な休息をとる事を命令された。
 クルー一人一人に部屋が割り当てられ、勤務以外の時はそこで生活する。
 新造艦なだけあって、設備も最新鋭のものばかりであったが、居住部屋の外観は殺風景なものであった。一部の上流階級をのぞいては。
 「シャアアアア。」
 シャワーの水しぶきを上げて流れる音が、バスルームにこだましている。