ラムダガンダムとは
2001年初めの中学卒業の頃にメカデザインとキャラクター名、大まかなシナリオを考え、2007年に読み物としての肉付けを行った。
第一話 ラムダ・システム
爽やかな朝の光が差し込む中層マンションの一室。酒瓶や服、拳銃などが散乱する。周囲の棚や机には、地球儀や階級証らしきものが置かれている。ベッドにはパンツ一丁で寝相悪く眠る男の姿。
ジリリリリリ!!
不意に目覚ましの音がして、男は重そうに体を起こす。目覚ましを止める。もう幾度と無くこの一連の動作を繰り返した。
「おはよう、ピース」
ノースリーブのニットに肌にフィットしたパンツスーツを履く、黒髪でストレートのロングヘアーの女。首にフィルム状のチョーカーを付けている。
「美味しそうな目玉焼きだね、ノリコ」
テーブルにはベーコンと一緒に焼いた目玉焼き、トースト、スープなどが整然と並べてある。
「いいにおいだ」
そう言うとよれよれのTシャツを着足しただけの頬に傷のある逆毛の男・ピース=ガルロスは、椅子に座り朝食を頬張り始めた。
戦争と技術開発の宇宙世紀も2世紀近くが経過した、東アジア最大の行政区域日本の都市郊外。
「さて、今日の日課、と」
朝食でお腹を満たしたピースはノートパソコンのモニターを立ち上げ、パソコンを起動し、メールチェックをする。
「あっフロンティア連邦からだ」
メールの差出人は彼の直属の上司、ノウマン=コウジ大尉だった。
『フロンティア連邦はMSの超戦闘システム、"ラムダシステム"を開発し、そのシステムを搭載したMSが我々の小隊にも配備される事になった。
貴官をラムダ・システムのテストパイロットに推薦し、小隊行動に参加する事を要請する』
という内容の英文のメールだった。
「安息と倦怠の日々もこれで終わりか・・・あー面倒くせえ」
「メールの内容・・・誰から?」
家事を終えたノリコが画面を覗く。
「俺の雇い主さ」
ピースは弾かれるようにその場を離れると、壁に掛けてあった軍服や書類の束をせっせと荷物にまとめた。ノリコも洗面所へ行き、軽いメイク
を済ませた。
数刻の後、階段脇にある殺風景なマンションの廊下に、小さな輪があった。ボストンバッグを背負ったピースと、ノリコ、隣に住むリノ=ラティナだ。
「あっちへ行っても、俺達の事を忘れないでくれよ!」
小柄で痩身、長髪のヴォーカリストのような外見のリノが微笑んで言った。
「ああ。じゃあ行ってくるぜ!」
そうしてピースは日本をあとにした。
宇宙進出は戦争の連続でもあった。既に数えきれない程多くの人がその犠牲となり、地球圏は荒廃した。そのような状況下、平和への願いから地球連邦は再編され、コロニー圏を含めた統合と同時に、戦争手段ともなり得る財の蓄積の放棄を目標とする、フロンティア連邦が設立された。しかし期待とは裏腹に、後にDEP(dead earth project:地球破壊計画)と認知されるような、"スペースギャング"と呼ばれる武装組織による地球に対する破壊活動は進行していく。そのバックにいたのが、フロンティア連邦の政策に反対し交戦状態に陥ったナイト財団である。ナイト財団は
自由な利益追求活動を主張し、フロンティア連邦による統治を否定した。U.C.160~170頃の事である。
「久しぶりだな、ピース」
まだ平和ボケの残るピースを出迎えたのは、彼を招聘したノウマン・コウジ大尉だった。まわりには見慣れた顔がいる。
「わざわざ皆で出迎えてくれなくても・・・」
「しばらく顔見ないと結構寂しいのよ」
そう一番に返答したのはエースパイロットのルナ=エイルスだ。女だてらにスマートなノーマルスーツ姿はカッコイイ。あとは顔なじみのオペレーターやメカニックがこの傭兵という珍獣のものめずらしさ半分で集まっていた。
「じゃあさっそくメンテナンスに行きますか」
ピースは気恥ずかしさを隠すようにそそくさと移動した。
MSデッキに現れたピースは既に軍服姿だった。襟の前を開け、ブーツで身のこなしは軽い。
「MSは乱暴なお前に壊されるためにあるんじゃないぞ!」
老年のメカニックが機体の前を通りすがりになぜかそう吐き捨てた。
「わーってるよ」
ピースは目も合わせないまま、返事だけした。コクピットに乗り込み、システムの調整に熱心だ。外でもさまざまな数値検査を行っている。ピースはラムダ・システムのデータ収集のためのテストパイロットの役割も兼ねている。コクピットにはラムダ・システム専用のデバイスであるヘッドギアがセットされていた。
一方、こちらはブリーフィングルーム
「07小隊が戦艦シャインに補給される事が決まったぞ」
「どこへ行くんだ」
「中国だ」
日差しが俄かに暑くなりかけていた―
《ラムダ解説》 ピース・ガルロス―軍に所属せず、傭兵という形で戦闘に参加するパイロット。住所は日本で、一人の女性と暮らしている。
ラムダシステム―パイロットへの影響を最小限に抑えながらMSの性能、戦闘能力を極限にまで高めるシステム。それによりMSとパイロットの反応速度が同時に向上し、結果2乗という数値でパフォーマンスを発揮する。
第二話 中国の戦い
世界各地でフロンティア連邦とナイト財団は交戦していた。中国でのナイト財団の勢力が増大し、ピースのいる07小隊は中国地域に配備された戦艦シャインの増援に向かう事となった。さっそくラムダシステムの実戦である。
「目的はナイト財団の鎮圧。しかし戦況はよろしくない」
ノウマン大尉が説明する。
「だからこそ俺達が呼ばれたんだろ」
机に足を組むピースは落ち着いた様子だ。
「うむ。作戦の成功を期待する」
ミーティングは解散し、最終スタンバイに入る。小隊は戦艦シャインに乗艦していた。シャインは反重力場を展開して飛行する巨大宇宙戦艦だ。宇宙・大気圏双方での航行が想定され理論上単独での大気圏突破が可能。
「降下開始!」
07小隊のMSが次々と出撃していく。ピースの乗機は全身をミサイルで武装したラムダシステム搭載機、他のパイロットは主に量産型の汎用MS"リーゲル"に搭乗。近接・中距離戦闘を主体とした機体である。
「とっととキメるぜ!!」
ピースは先駆けの攻撃を重ねる。しかし戦闘はナイト財団の激しい応戦によって長引く。加速器ビーム兵器を主体とする攻撃にピース達は苦しめられた。予想外の状況に疲れが見え始める。
「チィッ!!」
ピースは動きが鈍くなった所を複数の敵に近接戦闘に持ち込まれ、何とかかわし続けたものの、姿勢を崩し追い込まれた。
「やべっ!」
一瞬の沈黙の後、背後からビームサーベルに貫かれた敵機が自機の側面に倒れた。近付く機体が逆光になる。ルナ=エイルスだ。
「動ける?」
「ちょっと頭がクラクラするがな。マシンは大丈夫だ」
計器類を確認し、MSの上体を起こした。
「行くわよ」
ルナのMSは踵を返すと、戦地を前進して行った。
その後戦場でピースは何度かルナに助けられる事があった。ピースの能力はあるが訓練不足で実戦対応しきれない面をうまくカバーしていた。
「ありがとよ、中尉」
ピースは心の底からルナに感謝の念を持っていた。ときどきそれとなく伝えた。
「あんまり女の子に心配かけんなよ!」
そうつっこんでくるのは戦闘の情報をどこかで聞いたシャインの陽気な太めのドライバー、ケイ=オードだ。
「ゲッ・・・バレてた?」
美人なルナの事を皆が気になっている。片目を失明しながら、パイロットとして十二分に活躍する彼女を誰もが尊敬せずにはいられない。体の不自由なルナに同情するつもりはない。しかし自分の不甲斐なさに憤りや落胆を感じた。
「なに落ち込んでるんスか、ピースさん」
後輩で仲良しでもあるケニー=クラウドが気遣い役だ。
「メシ食いに行きましょうよ」
食堂では泣き虫のレイチェル=ニコリスがいつも泣いたり、喚いたりと騒ぎを起こしていた。パイロット適性が無いように見えるが、彼女は多重人格のニュータイプパイロットで、戦闘になると勇敢になって壊れているかと思うぐらいに進撃しまくる。ロビーでは童顔のハンサムなオペレーター、マイケル=ダグラスが女に囲まれていた。ピースとケニーはドリンク片手にスロープにもたれ、沈み行く大陸の夕日を見ていた。
《ラムダ解説2》 戦艦シャイン―フロンティア連邦の巨大戦艦。大気圏内における航行能力、および大気圏突破能力を有する。
リーゲル―フロンティア連邦の最新量産機。これに能力向上の為マントとミサイルポッドを装備した戦艦シャインのオリジナルユニット、リーゲル・シャインが存在する。
第三話 ラムダ VS ラムダ
戦闘がいよいよ本格化したアジア軍。フロンティア連邦はより強力になったラムダシステムを搭載したガンダム、Λガンダムを配備。しかし・・・
「なんだって!?」
ピース達に伝えられた知らせは、Λガンダムの配備された05小隊の全滅だった。
「ますます苦しい戦況になりそうだな・・・」
「奴らをブチのめすまで戦うだけだ」
元エリートの壮年、十獄郎=鬼殺がそう声を張り上げた。
「何か現状を打破するのに有効な手はないだろうか・・・」
シャインはなおも航行を続ける。
「ピースさん、至急ブリッジへ!」
居住区の内線が途切れる。ピースはベッドを飛び出し、すでにクルーが全員集合しているブリッジに到着した。
「では説明を始めよう」
口下にヒゲをたくわえたシャインの優秀な艦長、レオン=ルシエンはおもむろに話し始めた。
「さる情報筋からナイト財団の地下基地を発見した。我々はその地点へ向かう」
「奇襲ですね」
「そういう事だ」
副艦長のホーク=ゲイニィがそう付け足した。
「諸君の健闘を祈る」
草木も静まった夜、戦艦の推進音とMSのカメラアイの光だけが戦闘の始まりを伝える。シリンダーによって緩衝しながらMSの脚部が地面に着地する。排熱口から高熱を噴く。地下基地への奇襲が始まった。
「奴らめ今頃気付いたな?」
「こっちはMSデッキだ」
ピースは数機で格納庫へ向かった。そこで見たものとは・・・
「なにっ!?」
なんとフロンティア連邦のMS、ラムダガンダムが配備されていた。正面のラムダガンダムのカメラアイが点灯し、起動を知らせる。
「お前らは本隊と合流しろ。俺はこいつを叩く!」
ピースのレバーを握る手に力が入る。
「相手がラムダならこれを使って・・・」
ピースはロックを解除し、ラムダシステムのイグニッション・スイッチを入れ、ヘッドギアを装着した。
グラスビューのモニター画面を通してカメラ映像と赤外線、リアルタイムシミュレーション関数などの情報が重ねあわせて表示される。
「いくぜ!!」
スロットルを押し込んで二機が衝突し、目視出来ないスピードで近接戦が行われる。反応速度はラムダガンダムが圧倒的に上だった。ピースのラムダ搭載機はあっという間にガタガタになった。ヘッドギアの中でピースの意識は朦朧としていた。再度ラムダガンダムの目が光った。その時、ルナのMSが現れ、ラムダガンダムに突撃した。動かないラムダ搭載機の向こうで、壮絶なレベルの戦いが繰り広げられていた。性能差とラムダシステムに操縦技術で対抗する。しかしあまりに分が悪すぎた。MSの関節が悲鳴を上げていた。
「私は・・・負けない!」
ラムダガンダムが容赦なく迫る。ひときわ眩しい一閃が起こり・・・!
「ぐ・・・」
ヘッドギアの闇の中から、意識がはっきりしないままピースはハッチを開け、コックピットから抜け出た。
「ルナ・・・中尉?」
丸焦げになったルナの機体が視界に横たわっていた。ラムダガンダムを倒すのに、相討ちが精一杯だった。
「中尉!!」
コックピットを外から開け、力なく操縦席に崩れているルナを外に引き出す。
「ク・・・ウゥッ・・・」
ピースは涙が止まらない。ルナを支える手はその体を外見よりも小さく感じる。苦しそうに胸が上下する。それがだんだんおさまり・・・
「ウアアアーーッッ!!!」
やがて静かになった。地下基地の制圧を知らせる回収部隊が来るまで、ピースはルナを抱きかかえたままそこから動かなかった。
第四話 ラムダガンダムⅡ号機
ピース=ガルロスは自暴自棄になっていた。ルナの死を期に、ピースの戦闘に死をおそれぬ危なかしさを感じたノウマン=コウジは、ピースに日本へ戻る事を提案する。
「少し心を落ち着かせて、また戦闘に身を入れるためのいい機会だ。」
ピースは喪失感と共にボストンバッグを背負い、日本の空港に立っていた。
郊外にあるマンションは最後に見た時と変わらず、穏やかな景色に囲まれて建っていた。
「ただいまー・・・」
スチール製のドアを開けると、以前と変わらないナオコが出迎えた。つかの間の再会。
「また少しの間ここで気楽に生活すると思う」
そう言うとピースは自室にこもり、機械いじりを始めた。ナオコはボストンバッグの中身を整理し、多額の報酬を管理、書類の保管などを行う。クルー達と撮った写真や、自分の写真を一瞥し、またもとの家事に戻る。
深夜、暗い部屋にブラウン管の光だけが周囲を照らす。流行りの映画か何かを映していた。
「フフフッ」
ピースとナオコはゆったりとしたソファーに座ってそれを観ていた。笑えるシーンらしいが何が面白いのかピースにはちっとも分からない。テレビからは上の空で、仲間達と騒ぐ自分を楽しそうに見つめるルナの姿、ふとした時に見せたルナの笑顔を思い出していた。
我に返るとナオコが自分の肩にもたれて眠っていた。あまりに無防備なその様子に、ピースも思わず気が抜けた。
次に気付いた時にはソファーの上で手足を放り出して眠っていた。外は朝で、スズメの鳴き声が聞こえる。自分を邪魔そうに部屋を動き回るナオコ。やっぱりナオコの方が一枚上手だ―
一方フロンティア連邦は新たな展開を迎えていた。ΛガンダムⅡ号機の組み立てが完了し、戦艦シャインのピースのいる07小隊に配備され、パイロットはピースの代わりにノウマン=コウジが乗る事になった。
しばらくピースとシャインの間でやり取りは無かった。だがある日・・・
ピースはフロンティア連邦からのメールを見て愕然とした。そしてすぐに小隊に戻る事を決意する。ピースの顔色は以前よりも切迫した様子
だった。ナオコはまた簡潔にピースを送り出した。
「大尉は・・・やっぱりそうなのか」
またクルーの出迎えの風景。しかしそこに見えない姿がある。
ラムダガンダムⅡ号機に乗っていたノウマン=コウジ大尉は戦闘中に精神崩壊を起こし、ラムダガンダムも戦場の中で機能を停止。原因はラムダシステムと考えられ、その事はピースにも伝えられた。
ピースはすぐさま激戦地に投入された。ラムダガンダムⅡ号機に乗り、無心になって戦場で戦った。ラムダは基本性能から当時のスペックを遥かに凌駕していた。当然それを引き出しうる高度なパイロット能力が必要とされた。ピースは戦功を重ねていった。
中国での戦いはフロンティア連邦の勝利となった。
「君達の働きのおかげで中国における我々の作戦は成功した。この中からは表彰されるような人間もいるだろう。本当に感謝する」
艦長の演説もそこそこに、クルー同士の互いを褒め、喜びを伝え合う持ち上げ合戦が始まった。
「お前はあの時なかなかいい判断したよなー」
「なーに、お前だって・・・」
艦内には明るいムードが広がり初めていた。だがピースは強い口調で、
「ナイト財団を全て消すまで、自分達の戦闘を続ける事」
を要望した。
ピースの言う通り、中国大陸は大部分がフロンティア連邦が制圧したものの、まだまだ世界中で交戦状態であり、連邦にとって不利な状態にある区域も少なからずあった。またナイト財団の領土になっている区域も存在する。
「ピースさん、いないんですか、ピースさん?」
暗くなったピースの個室に内線の声が虚しく響いた。
ピースは人目につかない居住区の一角で、うつむいて佇んでいた。
戦艦シャインはナイト財団の領域へ進攻して行った。
《ラムダ解説3》 ラムダガンダムⅡ号機―ラムダシステムを搭載し、それをフルに生かすために機体の性能を大幅に向上させた。背部に大型シールドを装備し、大気圏外における放熱板にもなっている。MA並みの大出力を持つが、負担も大きい。
第五話 大気圏中の出撃
戦艦シャインはナイト財団の本土へ進攻していた。ピース達の目の前に超巨大MA率いるMS大隊が現れ、ピース達は樹木地帯に後退し、これを迎え討つ。ここに三日間に渡る激戦が始まる。
「あんた達、しつこいッッ」
レイチェル=ニコリスはビーム砲を振り回す。
「とっとと終わらせて、ロビーで休憩したいね!」
ケニー=クラウドはビームサーベルで敵機にダメージを与えていく。
「ふんっ、フンッッ!!」
十獄郎=鬼殺の問答無用、といった勢いの白兵戦が敵を蹴散らしていく。夜が明けても戦闘の音が途絶える事は無い。
そうして三日は過ぎ、小隊のほぼ全てのMSが撃破された。
「ラムダガンダム、帰艦して下さい!」
三日間補給も無く戦い続けその性能を保証したラムダガンダムも、日差しに映える頭部は損傷している。
「了解っ!」
ピースは軽く返事をしてシャインに合流した。戦艦シャインは理論上可能な補助なしでの単体での大気圏突破を強行。財団機の見守る中成功した。
「07小隊の死者は0か。神の御加護のおかげだな。」
他の小隊ではまたささやかな葬儀が行われていた。
「俺達は通常の3倍働いたよな!」
誰かが宇宙世紀の古典的流行り言葉を口にした。シャインは広大な宇宙空間、最後のフロンティアを航行していた。
「戦い続けて・・・ついにこんな所まで来ちゃったな・・・」
ガラス面越しの無限の闇を目の前に、ロビーでくつろぐピースが呟く。
「あれっ、先輩は地球出身ですか?」
「当たり前だろ」
カップのドリンクを飲みかけたケニーがきょとんとした顔でピースを見た。
「現在、人類の半分以上が宇宙で生活しているんですよ?その言い方はおかしいですよ」
「そうかな・・・」
「宇宙進出は人の革新をもたらすと思いませんか?」
ケニーのような宇宙世紀の青年は未だに皆、宇宙に対して全ての肯定的なイメージを付与し、夢物語を抱いている。だが彼らを興奮させ熱狂させるニュータイプも、現実のところ一握りの天才の世界に過ぎない。
「ニュータイプの可能性だって、結局は人のエゴによって潰されていった。それが俺達の知っている歴史だろ」
人類の宇宙への進出も、地球に人が住み切れなくなったので地球を追い出され、過酷な環境下で生活する事を余儀無くされた人達にとっては、望まざるものだったに違いない。その人達の辛い時代の上に、現在の宇宙の繁栄がある。
「人間とはつくづく都合のいい生き物だと思うよ」
「そうですか?」
ケニーは自分の思うような答えが得られなくて少し不満な様子だった。
戦艦シャインは再度ナイト財団の本土へ進攻するため、新たにMSを配備し、戦艦を修復して地球圏へ向かった。
その大気圏突入の最中・・・
「艦長、MAが一機本艦に接近して来ます!」
「なにっ!?この角度で軌道に侵入するだと?」
突然カタパルトのMSからモニターが入った。
「あんたらは本土進攻の準備をしていてくれ!」
「ピース!」
「会敵予想時刻をコンマ30に修正」
「じゃ、行ってくるぜ!」
ピースの乗ったラムダガンダムⅡ号機が出撃した。既に大気圏との摩擦熱が発生し、紅い光弾となって地球に落下していく。
シャインに迫るのはナイト財団の超大型MA、ゼノンだった。
《ラムダ解説4》 ゼノン―ナイト財団の超巨大MA。戦艦級との戦闘を主とし、全高150mもの大きさになっているが、MSとの戦闘にも十分な機動力を持っている。しかも大気圏中でも戦闘能力はおちる事はない。
武装/超大型メガ粒子砲×1、メガビーム砲ビット×2、バルカン砲×6
最終話 決着
ピースは連邦最強の兵器・ラムダガンダムでゼノンを迎撃するも、もともと大気圏中での戦闘をも想定してつくられたゼノンとの戦闘に苦戦する。やがてシャインのレーダーからラムダの反応が消えてしまう。シャインのクルーは沈黙しながら、地球へ降下して行った。
「ハアッ!」
ラムダガンダムの腕部のメガビーム砲がゼノンめがけて発射される。ゼノンはそれを素早く頭上にかわす。
「ウオオオ!!」
間髪入れずに機体を加速する。ラムダガンダムはシャインとの交信が途絶えた後も、戦闘を続けていた。超大型MA・ゼノンはサイコミュ兵器・ビットによるオールレンジ攻撃をしかけてくる。
「くっ、このままでは翻弄される・・・」
ピースは意を決し、ノウマンが精神崩壊を起こしたラムダシステムを発動する。ラムダガンダムはケタ違いの加速でゼノンに迫った。
「ぐっ!!」
ゼノンのパイロットは動揺する。ビット攻撃が一段と激しくなる。数分の間息詰まるような攻防が繰り広げられ、わずかなスキを見つけたピースがゼノンを撃破する。宇宙に響き渡る巨大な爆発の閃光。ガンダムはその光を頭部に照り返している。
「やったか・・・」
しかし・・・ゼノンの中から一機のMSが出現した。
「まだか!・・・何ッ!?」
ピースは驚きに目を見開いた。スクリーンにはルナが自らを犠牲に撃破したはずのラムダガンダムⅠ号機が映っている。
「う・・・あ・・・」
「死にたくなければそこをどけ・・・」
敵パイロットが交信してきた。
「な、何だと、死ぬのはそっちの方だ・・・ん、その声は!?」
「フーッ・・・」
「まさか、リノ=ラティナ・・・」
パイロットが同じアパートの住人だと知ったピースは戸惑いを見せた。その瞬間。
ズギュウウウウン
ラムダⅡ号機の頭部が撃ち抜かれた。
「・・・・・・」
ピースは幻覚をみた。ルナとノウマンが自分の手をつかみ、ビーム砲の引き金を握らせるのを。
そしてラムダⅡ号機は、Ⅰ号機のコクピットを、おそろしい速度でビーム砲を発射し、うちぬいた。