ローランド戦記(2008.12.1)


 ACT.1 ミーナ=ラプロクス
 「ねえグランマ・・・私・・・怖い・・・」
 「あらどうしたの、可愛いヘレン―」
 「悪魔が私の事を、食べに来るの。」
 「まあ・・・それは大変」
 「怖いよ―」
 「でも大丈夫、ヘレンにはおばあちゃんがついているから」
 「私の事守ってくれる?」
 「ええ。それにとっても心強い騎士達が、皆の事を守ってくれるのよ」
 「悪魔来ないよね?」
 「ええ。だからもう目をつぶりなさい・・・」

 草木も静まり返った闇夜。森の中を駆ける幾人かの足音。
 「ハア、ハア・・・あっ!」
 女性的な優美な脚が、朽木につまづく。
 「コイツ、ついに追い詰めたぞ!」
 獲物を取り囲む自警団のゴロツキ共。
 「待て!お前達は手を出すな」
 「そ、そうだな。相手は妖獣なんだ」
 自警団の男達が離れ、獲物の姿が露になる。人間の女に似たいやらしい曲線美が、見る者を誘惑する。
 「ク・・・」
 正面に立つ剣士が静かに引き抜く剣の反射光に、圧倒される妖獣の女。

 ズチュッ・・・ズプッ
 「んんんんんっ」
 酒場の隅でゴロツキ達に犯され、晒される妖獣の女。
 「ひひひひひ」
 男達は各々の汚れた欲望を吐き出す。
 ゴトッ
 カウンターで飲んでいた防具姿の女が金髪をなびかせ、グラスを心持ちしたたかに打ち付けて狂乱の現場を振り返る。
 「そのくらいにしたらどう、お前達」
 「ケケケ、言われてるぞ」
 「この頃ごぶさただったんでね!」
 そう言うと荒々しく女の秘所からイチモツを引き抜く。恥ずかしい部分を晒してうつ伏せに肘をつき、小刻みに震える女。
 「あっヒロ」
 「さあ見回り交代だ、頭を冷やして来い」
 先ほどの若い大男の剣士が酒場の入り口から現れる。
 「へへへ、おかげさまで妖獣の女を堪能しやした」
 「ダンナもお楽しみ・・・いや、ダンナはミーナ様一筋でしたかな」
 「愚問だ」
 剣士の男は向き直るゴロツキ達を横目に、カウンターの金髪女の横の席にどっかりと腰を下ろす。
 「悪趣味ね」
 「どうした、機嫌悪いなミーナ」
 横で飲むミーナの様子を伺ったヒロは、ミーナの背中の視線のようなものを感じ取って、その先にある妖獣の女の方を見やる。
 「辱められた妖獣の女か・・・精神衛生上あまり良いとは言えないな」
 ヒロのテーピングだらけの手許から放物線を描いて、グラスに満たされていく半透明の液体。
 「でもな、これも仕方の無い事で・・・」
 「ゴロツキ達の肩を持つっていうの!?」
 「!!お前・・・」
 ミーナは倒れている妖獣の女を抱き起こし、マントを羽織わせた。
 「もう許して・・・」
 女はミーナに抱きつき、すすり泣いて許しを請う。
 「この妖獣は傷付いている。逃がしてあげましょう」
 ミーナはそう提案する。
 「お願いします・・・うっ・・・ううっ・・・」
 妖獣の女自身もヒロを見ながら哀願する。
 「・・・しかしな」
 そう言って席を立ち、壁際に片方の肩をもたれるように座り込み、鞘に収まった剣をかざしながら言い放つヒロ。
 「お前を捕らえるのが俺の仕事なんでな」
 「そんなッ・・・嫌・・・」
 妖獣の女はショックを受け、思わず手で顔を覆う。
 「ゴールドを得るために、お前を逃がすわけにはいかないんだ」
 女はミーナを振り返る。が、彼女も同様俯いて口をつぐむ。
 「何とかして!・・・お願いだから・・・」
 妖獣の女はミーナの握った手を揺さぶり、必死に訴える。
 「何とかしてと言われても・・・」
 「私、死にたくない・・・」
 やがて灯りの落ちた酒場で、途方に暮れる妖獣の女と、空のグラスを握り締めたミーナ、俯いて押し黙るヒロ・・・
 「・・・こうなったら」
 ヒロが徐に立ち上がり、妖獣の女を見下ろして言った。
 「依頼主に直接頼むしかない」
 
 「そんな事は絶対に許しません!」
 ヴィショップ階級の邸宅の軒下に響く老婆の叫び声。
 「お婆ちゃん、ヘレン怖い・・・」
 寝巻き姿で不安そうに老婆の衣服の裾を掴む、美しい金色の髪をした少女。
 「しかし、単に妖獣と言っても様々いる。それにこの妖獣も悪戯はもう止めると言っているんだ。」
 「いいえ、殺して!!」
 身を寄せ合う老婆と少女は一様に殺意の視線を妖獣に向けるのみ。
 「そうだそうだ、悪魔は殺すのが一番なんだ!!」
 騒ぎを取り巻いていた衆人やゴロツキが耐えかねたかの様に、妖獣をどこかに処刑しに連れて行ってしまった。
 「ここに住む人達の安全の為だ、ミーナ」
 衆人が去り、依頼主の邸宅の扉にきつく錠が掛けられ、ランプの灯も消され、行き場の無い気持ちを抱えたミーナとヒロだけがそこに立ち尽くしていた。

 若き剣士ジョニンソン=ヒロの言うとおり、民衆が妖獣を憎悪するのは仕方の無い事だった。そう、彼らの住むローランドは、妖獣に支配されているのだ。
今日も村一つが妖獣達によって壊滅させられ、暴虐の限りを尽くされたという知らせがミーナ達の下に届く。
 「私、決めたわ」
 「ミーナ」
 「やはり人間の、ローランドに住む人々の命が大事。私はこの地から妖獣を消し去る為に、旅に出る」
 「ミーナが行くなら俺も行く」
 「ヒロ・・・ありがとう」

 ACT.2 ワット=スカーレット
 「誰かその食い逃げを捕まえてくれ~!!」
 通りの一角におたまを振り回すコックの親爺の叫び声が響き渡る。
 「コラ、待て!」
 「さいなら~」
 痩身の若者は人ごみを縫うようにそそくさと追っ手から姿をくらました。
 
 「あ、お兄ちゃんだ!」
 ワアアアア
 街の風下の地域に帰ってきた痩身の若者は、外で遊んでいたたくさんの子供達に囲まれた。
 「慌てるな、ちゃんと人数分あるんだから」
 子供達の目当ては、若者が持ってくる(盗んできた?)アメなどの菓子類だ。ポケットがすっからかんになったワット=スカーレットは屋根裏の自室に戻り、
窓から冬の空と家々の屋根を眺めていた。