某都市の市街地の一角にある雑居ビル。その2Fにテナントとしてその事務所はあった。
「すみませーん、あれ、留守かな・・・」
どこにでもいそうな風体の男が事務所名のプリントされたガラス戸を開け、顔を覗かせる。
「はーい」
パタパタとスリッパの音をさせ、軽やかな足取りでタイトスカートに包まれた腰を振り、ガーターベルトで留められた白のタイツの眩しい、さっぱりとした小奇麗な女性。
「ちょっと相談がありまして・・・あなたここの人ですか?」
「ええ、私はスタッフです。あちらの応接室でご用件をお伺い致します、どうぞ」
「あ、こういう所初めてで・・・失礼します」
男はモジモジと照れながら、ドアを開けるスタッフの女性に招かれ足を踏み入れる。
「よろしくお願いします」
女性は深々と頭を下げる。麗しい身のこなし。
「こ、こんなに綺麗な女性がいるなんて、お、驚きだな・・・」
「緊張していますか?」
「い、いやもっと殺伐とした所だと思ってた。無愛想なオッサンがだらしない格好で椅子にもたれてて・・・」
「分かります。そういうイメージ、多いです」
「ここ風俗店じゃないよな?」
「あーら、探偵さん!」
繁華街に響き渡る様な重厚なヴォイスがして、スーツに革靴の足がその場に止まる。
「・・・はい?」
呼び止められた男は長い前髪から素っ頓狂な表情を覗かせて声の主を覗き込む。
「あら覚えてないの、ワタシよワタシ!」
暫し動きの止まる男。
「1Fのオバさんですか?」
「そうそう、オホホ。しっかりしてよ。お仕事頑張って下さいね!」
そう言うと階下の住人は人ごみの中に消えた。
「ただいまー」
ビニール袋を提げて、何となしにガラス戸を開ける探偵の男。
「あれー、優理、居ないの?」
デスクがあっけらかんとしているので、無造作にビニール袋を机の上に置き、背広の上着を脱いで椅子に掛け、たばこを吸いに応接間へ向かった。
「ん」
見るとそこにはソファーに体を沈めて股を開いた助手の優理と、追いすがる見知らぬ男の姿があった。2人とも着衣が乱れている。
「三神さん!」
「あの・・・何やってるんスか」
三神と呼ばれる探偵は、呆然とした表情で入り口に立ち尽くす。
「あ・・・これはそういう事ではなくて・・・」
「もしかして・・・お客様?」
客の男は慌てて身だしなみを整える。優理は口を尖らせて足早に応接間を後にした。
「あのね・・・困りますよ」
「すみません、ついムラムラして・・・」
「うちは風俗営業はやってないんですよ。依頼は聞きますから」
「はい・・・」
客の男はうなだれて、さっき優理を押し倒したばかりのソファーに小さくなって腰掛けた。
「―それで?」
「妻が・・・浮気をしているのではないかと・・・」
そう声を絞り出すように言い、俯く男の目の前に、ドン!とテーブルを揺らして煮えたぎったお茶が置かれる。
「・・・・・・」
三神は向こうのカベを見つめて依頼者と助手の様子を伺う。