誘惑―美しき罠―(2004) 約4,310字

 中学生の頃、まだおとなしくグラマーな体をもてあましていた直子は、同じ団地に住む小学生の勇児にいやがらせを受けていた。勇児にしてみれば、直子の胸をもんだり腰を掴んだり、お尻を触ったりするのはイタズラ程度の気持ちからだったのだが、気弱な直子にとってはかなりの苦痛となっていた。やがて月日が経ち成長するにつれ、2人が会う事は無くなっていたのだが、直子の心には男性との接触に対する恐怖心のようなものが残った。もともと美貌のあった直子はどんどん明るく魅力的な女性になっていった。一方勇児は、だんだん内気な青年になっていった。そんな2人が再会したのは直子の教育実習先の高校、勇児の通う高校でだった。直子はセクシーなスーツに身をつつみ、性欲ムンムンな男子生徒達の視線をいきなり釘付けにした。半分は恐怖心からか、直子は男に対し近寄り難い印象を抱かせるようなダーティな色気を好んで用いた。直子はまっすぐな視線の中に、一つ遠慮がちな視線のある事に気付いた。勇児だ。直子は勇児に対し微笑みかけた。勇児はうつむいてしまった。受験戦争という過酷な生存競争が、奔放な少年をここまで痛めつけた。メガネ・内気・ガリ勉と女子にはキモがられ、男子にはナメられ、生活に一点の面白さも見出せない彼にはずる賢い駆け引きをやる力は残っていなかった。今の彼にはもちろん昔の出来事を想起させるような視線を返す事も出来なければ、直子の方が立場は優勢である。直子はトップクラスの進学校に勇児が居る事に少し驚いたが、これからの実習期間の事を考えると、彼女の笑みは深みを増した。直子が勇児と親しくしている人達に、それとなく勇児の事を聞いてみると、勇児は表面上は真面目に見えるが、実は相当なスケベだという噂だ、という答えが返って来た。そんな事は聞かなくても解る、と直子は思った。次に女子にも聞くと1人2人が「優しい人」とか「おもしろい」と言っただけで、あとは「よく分からない」だの「キモい」だの「暗い」「コワい」だのと、散々なものだった。ものすごい嫌われようだなと直子は思った。ま、嫌われるような事しかしないんだから、しょうがないな、とも思った。一日目の実習が終わり、直子が廊下を歩いていると、窓ガラスの外に勇児の姿を見かけた。勇児はこれでもかというくらいに背中を丸めてうつむき、そそくさと校門を出ていく。学校の前に広がる都市の雑踏の中でも、その姿はひときわ目立った。とても哀しい姿だった。しかし直子にはこんなつまらない男はどうでもいいという気持ちより、過去の事に対するサディスティックな復讐心の方が勝っていた。

直子が担当の数学の授業を勇児のクラスでしていた時の事だった。教科書を片手に生徒達を見ながら教室内を回っていると、勇児が教科書を立てて何か写真を見ている事に気付いた。直子はそっと勇児の後ろに立ち、その写真を取り上げた。「あっ」勇児はひどく驚いた。直子はその写真を見て目をみはった。そこには少年が、しかも直子にもそう思えるほどの美少年が写っていた。「ふーん」直子は勇児に向ってダークな笑みを浮かべた。勇児は困ったという表情をした。直子はその写真を没収した。放課後、勇児が職員室の直子の所にやって来た。直子はストッキングをまとったピチピチの長い脚を組み、挑発する様な上目遣いで言った。「何か用?」「・・・あの」勇児は声も満足に出せない。「だから、何か用?」「あの、写真返して下さい」勇児は低い声だがはっきりと言った。直子はニコリと笑って「ちょっとこっちへ」と言って席を立った。着いた先は、指導室。勇児が美人実習生の直子と一緒に、狭い個室に入っていくのを、うらやましそうに見ている男子生徒も何人かいた。向かい合って用意された椅子に座り、窮鼠に接する猫の様に、黙って女がこちらを見つめている。年上の女が好きな男なら絶対に襲い掛かりたくなる様な光景だ。しかしそれは鬼畜に値する行為だし、先生と生徒という立場では到底不可能な事だ。それに勇児は周囲の印象とは裏腹に、力の前では女は所詮女という価値観をどうにか否定したいというフェミニズムが入っている奴だったので、そういった欲望を心の内に収めていた。勇児にはジャンヌ・ダルクだとか、ヴァルキリーなどといった戦乙女的な女性の理想像があり、マリアとも違ったシンボリックな女性を求める所があった。そしてそういう潔癖な女性を、自分の手で汚してやりたいという思いもどこかにあった。今、目の前にそういう女性が居る。その女性の肌から発せられる匂いや温度を、感じる。「キミって・・・そういう趣味だったの。」直子は写真を取り出して言った。大抵の場合、女はゲイの事を悪く思わない。自分には無関係だからか、男の視線を感じずに済むからか、その理由はよく分からない。ただ好奇心からなのかもしれない。勇児の所有していた写真に写っていたのは女でも少し嫉妬をもって見入ってしまう様な、女顔をした美少年であった。「いえ、これはただ・・・」勇児は口ごもった。その写真の主は同級生の大塚君。その少年の妖しげな明るさ、しぐさにいつの間にか誘惑されている自分に気付く。これはもしや世に言うアレでは・・・と不安と恐れに憑りつかれる。妄想はエスカレートし、それはいつか発散される。その行為は決して消す事は出来ない。「この写真をオナニーにでも使ったのかしら?」直子は恥ずかしい言葉を平気で使う。勇児は図星、といった反応は見せなかったが、そうではないとも言い切れない。「返せよ・・・直子」勇児は少し牙を剝こうとしたが直子のサディズムが許すはずがなかった。教師とはもともと多分にサディスティックな存在なのかもしれない。「ちょっと・・・何その態度は!それが目上の人間に対する態度なの!?」直子は部屋の外まで聞こえる様な大声で怒鳴った。30分程度部屋にとどめておいて、反抗的な気を起させない様にした。写真は返したが、写真の人物を知るのにそう時間はかからなかった。学校には全てのデータが揃っている。大塚という少年は、勇児だけでなく、クラスの男友達にも、同学年の男子にも、学校中の、いや初対面の人間にも好かれているに違いなかった。もちろん男として、女子にも。勇児などそういった意識を持つ人達の中では、誰にでも明るく接する大塚の好意を、勘違いして受け取っているキモい奴ぐらいにしか思われていないだろう。直子もまた万人の気を引く美貌を持ち合わせていた。友達と何気ない会話に楽しく盛り上がる大塚の背後に、美しき直子の影があった。

朝、登校の時間。たまに顔を合わせる勇児は、大塚に向かって照れくさそうに、しかしハイになって話をする。直子は教室に向かう学生達の波の中、立ち止まってそれを見ている。勇児の表情が不意に固まる。直子が2人の横を通り過ぎた。いつもの一日が始まる。勇児は終始落ち着かない気持ちだったに違いない。もし写真の事が直子以外に知れたら、彼の居場所は無くなる。しかし幸か不幸か、直子にそうする気は無かった。短絡的な常套手段は、手っ取り早いが後味が悪い。勇児の不安は日を追って減っていった。そして教育実習最後の日。この日さえ何もな無ければ、全てが白紙に戻る。勇児は長い長い一日を再び送り始めた。全校集会での別れの挨拶が終わり、若い教師の卵達は更なるステップへと、疲れを知らずに歩を進めていく。直子は指導室に、再び勇児を呼んだ。勇児は過去の直子に対する行いを謝ろうかなどと考えながら、廊下を歩いていた。

勇児は指導室の扉を開けた。直子が椅子に座り、その横には大塚が立っていた。大塚は少しやつれていて、髪型は乱れ、服はところどころよごれが付いている。どこか怯えた表情が、間近で見るとそそられる。「勇児・・・」大塚は重い口から言葉を発した。「どうして・・・」勇児はそこに大塚が居る事に、戸惑う。「勇児・・・おれ」そう言ったか言わないかのうちに、直子は大塚の顔に手をあて、顔を傾け、ディープキスをした。大塚のしっとりとした肌の感触。セクシーな唇の味。それらを確かめているうちに、直子はまるで女同どうしで絡みあっている様な感覚にとらわれた。直子は大塚のズボンのチャックを下ろし、トランクスの中から硬くなった大塚のモノをさぐり出し、クワえた。大塚の白い肌が紅潮する。直子の頭部が大塚の懐で、小刻みに激しく動いた。直子のシルクの様な長い髪が揺れる。直子の小さな頭を冷たいしなやかな指で押さえつけ、大塚は腰を動かして白濁液を直子の口の中にぶちまけた。顔にもかかった。直子は鼻へ上がった液にむせかえった。直子はやおら立ち上がると、壁に手をつき、ストッキングを下ろし、パンティーをずらして陰部をあらわにした。「来て・・・」大塚は勇児には目もくれず、再び大きくなったモノを直子の膣の中に一気に挿入した。「んっ!」直子の長い両脚についているお尻の弾力が、大塚の腰を受け止める。「ああ・・・先生のナカ・・・あったかい・・・最高だよォ」大塚の小悪魔的な声色の、低く、イントネーションのエロい声が、ピストン運動の音とともに、空白の部屋に響く。勇児は2人の行為を、あまりにも美しくひたむいきなそれを、まばたきもせずにじっと見ていた。やがて臨界が訪れ、大塚は直子の膣内で果てた。直子の腹からモノを抜くと、液が垂れた。大塚は両手をついてへたりこんだ。直子は足腰の力を失ってその場に倒れた。髪を振り乱し、汗に顔を濡らしながら、勇児の方を睨んで笑った。それと目が合った時、勇児の中で衝動が起こり、理性のタガが外れ、体が直子に襲い掛かっていた。嫌がる直子をムリヤリ押し倒し、高級そうなスーツをメチャクチャにして脱がし、純白の、花の模様の入ったレースのブラやパンティーにつつまれた胸や陰毛を露出させ、牝鹿の様な脚をつかみ、上にのしかかり、顔をくっつけて屈辱的な格好から、直子の膣に思いきりぶち込んだ。結合状態から、直子のたわわに実った豊かな乳房に顔をうずめ、痛いと思われるくらいに突いた。とにかく犯した。ありったけの精子を放出した。どれだけの時間がたったのだろうか。勇児はひとり指導室を出て、夜の街へ消えていった。その3日後の早朝、勇児は自宅の部屋で、親兄弟が眠っている間に射殺された。拳銃の持ち主、直子は全国に指名手配され、行方知れず。大塚は何事も無かったかの様に勉強・部活に打ち込み、現在年下の彼女と順調に交際中。勇児が死に、美少年、大塚を巻き込んだ、3人の悪夢の様な関係は終わった。直子の最も美しく、最も残酷な復讐は、成功した。